クリミア大橋(クリミアおおはし、ロシア語: Крымский мост、ウクライナ語: Кримський міст)またはケルチ海峡大橋(ケルチかいきょうおおはし、ロシア語: Керченский мост、ウクライナ語: Керченський міст、クリミア・タタール語: Керич Копюри)は、ロシア連邦クラスノダール地方のタマン半島とクリミア半島(この半島は、クリミア共和国としてロシアが実効支配している)の間を結ぶ、全長18.1 km(道路橋は16.9 km)の鉄道道路併用橋である。両半島の間でトゥーズラ島とトゥーズラ・スピット(トゥーズラ砂州)とを経由する。クリミア橋ケルチ橋と呼ばれることもある。

ロシア本土とクリミア半島の間を結ぶケルチ海峡フェリーの代替として建設された橋である。2015年5月に建設工事が開始され、道路部分は2018年5月15日に開通した。鉄道部分は2019年12月23日に開通した。ロシアがこれまでに建設した橋の中で最長、ヨーロッパで最も長い橋である。

ケルチ海峡に橋を建設する計画は19世紀から存在し、1903年にはロシア皇帝ニコライ2世により計画されたが、日露戦争および第一次世界大戦の影響もあり実現しなかった[1]。

第二次世界大戦(独ソ戦)中の1943年、ナチス・ドイツの軍需相アルベルト・シュペーアが架橋計画を提案した。コーカサスの戦い(ロシア語版)をドイツ国防軍優位に進めることが狙いであったが、既にドイツ軍は劣勢に転じていた。撤退に合わせてトート機関はケルチ海峡に1日当たり1,000トンの輸送力を持つロープウェイを建設した。同年3月7日にはドイツ総統アドルフ・ヒトラーが6か月以内にケルチ海峡に鉄道道路併用橋を建設するように指示した。4月にはトート機関が工事を開始したが、9月1日にはソ連軍の総攻撃が始まり撤退を余儀なくされた。この時点で全体の約3分の1が完成していたが、ドイツ軍は撤退の過程において橋梁のうち既に完成していた区間を爆破した。赤軍によるクリミア解放後にドイツ軍が置き去りにした資材で延長4.5 kmのケルチ鉄道橋が建設され1944年秋に仮開通したが、1945年2月に突堤の欠陥や流氷の影響により崩壊した。

1949年、ソ連政府はイェニカーレとチュシュカ・スピットを結ぶ、道路・鉄道併用橋の建設を指示したが、1950年に建設は中止され、代わりにフェリー路線が創設されることになった[2]。1960年代中盤以降はケルチ水力発電所計画によりダムおよび橋を建設する計画が浮上したが、ソビエト連邦の崩壊の影響で実現しなかった。

橋の建設は2006年にウクライナの閣議で再検討され、当時のウクライナ運輸大臣ミコラ・ルドコフスキーは、橋が「ロシアのコーカサスを訪れるすべての観光客がクリミアにも訪れる」ことを可能にするので、「クリミアにとって正味のプラス」となることが期待できると述べた[3]。この問題は2008年に両国の首相によって議論され[4]、その年に採択されたロシアの交通戦略では、2016年から2030年の期間における南連邦管区の交通インフラ整備の最優先課題としてケルチ海峡橋の建設を想定し、2015年までに設計を作成することとなった。

2010年、ウクライナのヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領とロシアのドミートリー・メドヴェージェフ大統領がケルチ海峡への架橋計画に合意し、署名を行った[5]。2013年11月のウクライナ・EU連合協定(ウクライナ語版)否決により架橋計画への関心はさらに高まった。

2014年1月下旬、ウクライナとロシアの両政府は、ウクライナとロシアの新しい合弁会社が橋梁を建設し、ロシアの国営企業であるロシア高速道路公団(アヴトドル)が管理を行う方向で合意した[6]。ウクライナの経済発展貿易省は、建設には5年かかり、15億ドルから30億ドルの費用がかかると概算した[6]。2014年2月初頭にはイーゴリ・シュワロフロシア連邦第一副首相がアヴトドルに対して実現可能性の研究報告を2015年までにまとめるように指示した。

2014年3月18日のロシアによるクリミアの併合により、ケルチ海峡架橋プロジェクトはロシアにとって極めて重要なものとなった[7]。ロシアはウクライナと異なりクリミアへの陸路での到達手段がなく、ケルチ海峡フェリーは悪天候によりしばしば停止し[8]、しばしば車両の長い列ができたという限界があったからである[9]。この橋はクリミアを保持するというロシアの決意の象徴であり[7]、クリミアをロシア領に物理的に繋ぐものとなった[10]。もはや二国間プロジェクトではなく、それ以降のケルチ海峡橋の設計と建設はロシアによって一方的に行われた。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、クリミア併合を行った翌日の3月19日に、ケルチ海峡に鉄道道路併用橋を建設することを表明した[11]。2015年1月にはプーチン大統領と親交が深いと報じられているアルカディ・ローテンベルクが運営するストロイガズモンタジ(ロシア語版)(SGM)社が橋梁建設を受注した。SGM社はパイプラインの建設には関わってきたが、橋梁の建設はこれが初めてであった[12]。

ウクライナ政府は、橋のロシアの建設を違法として活発に非難し[13][14]、ロシアに「一時占領下のウクライナ領内にあるその構造物の部分」の撤去を求めている[15]。建設に関与した企業に対してはアメリカと欧州連合から制裁措置が導入され[16][17][18]、2018年12月以降、国連総会は橋の建設と開通を「クリミアのさらなる軍事化を促進する」[19][20]、「アゾフ海沿岸のウクライナの港に到着できる船のサイズを制限する」として繰り返し非難している[21]。他方、ロシアは「ロシア地域の住民のために輸送インフラを建設するために誰の許可も求めない」と主張した[22]。

^ Мост жизни. К предистории Керченского моста ^ “Предисловие | Мост через Керченский пролив”. kerch.rusarchives.ru. 2022年5月6日閲覧。 ^ “Кабмин рассматривает возможность соединения Украины с Россией” (ロシア語). Украинская правда. 2022年5月6日閲覧。 ^ “Россия и Украина договорились строить мост через Керченский пролив” (ロシア語). Lenta.RU. 2022年5月6日閲覧。 ^ “Azarov creates group for bridging the Kerch Strait - Aug. 09, 2010”. KyivPost (2010年8月9日). 2022年5月6日閲覧。 ^ a b “Мост к соседям” (ロシア語). Ведомости. 2022年5月6日閲覧。 ^ a b “Russia's bridge link with Crimea moves nearer to completion” (英語). the Guardian (2017年8月31日). 2022年5月6日閲覧。 ^ “Putin opens 12-mile bridge between Crimea and Russian mainland” (英語). the Guardian (2018年5月15日). 2022年5月6日閲覧。 ^ “Bridge connects Crimea to Russia, and Putin to a Tsarist dream” (英語). South China Morning Post (2018年5月15日). 2022年5月6日閲覧。 ^ “Russia Makes Bold Move to Try to Solidify Control Over Crimea”. The Daily Signal (2018年5月18日). 2022年5月6日閲覧。 ^ “Kerch Strait bridge to be built ahead of schedule — deputy minister”. tass.ru. 2022年5月6日閲覧。 ^ “Ukraine conflict: Putin ally to build bridge to Crimea” (英語). BBC News. 2022年5月6日閲覧。 ^ “Ukraine-Russia sea clash: Who controls the territorial waters around Crimea?” (英語). BBC News. (2018年11月27日). https://www.bbc.com/news/world-46345317 2022年5月6日閲覧。  ^ ロシア・クリミア間に橋 プーチン氏「歴史的な日」『日本経済新聞』朝刊2018年5月16日(国際面)。 ^ “Киев считает противоправным введение РФ запрета на судоходство через Керченский пролив” (ロシア語). Интерфакс-Украина. 2022年5月6日閲覧。 ^ “U.S. imposes sanctions on 'Putin's bridge' to Crimea” (英語). Reuters. (2016年9月1日). https://www.reuters.com/article/us-ukraine-crisis-russia-usa-sanctions-idUSKCN1175E0 2022年5月6日閲覧。  ^ “Ukraine: EU adds six entities involved in the construction of the Kerch Bridge connecting the illegally annexed Crimea to Russia to sanctions list” (英語). www.consilium.europa.eu. 2022年5月6日閲覧。 ^ 「EU、クリミア架橋巡り制裁」『日本経済新聞』朝刊2018年8月1日掲載の共同通信配信記事(2018年8月1日閲覧)。 ^ “ODS HOME PAGE”. documents-dds-ny.un.org. 2022年5月6日閲覧。 ^ “General Assembly Adopts Resolution Urging Russian Federation to Withdraw Its Armed Forces from Crimea, Expressing Grave Concern about Rising Military Presence | Meetings Coverage and Press Releases”. www.un.org. 2022年5月6日閲覧。 ^ “ODS HOME PAGE”. documents-dds-ny.un.org. 2022年5月6日閲覧。 ^ Times, The Moscow (2018年5月16日). “Russia Defends Opening of Crimea Bridge Against U.S. Criticism” (英語). The Moscow Times. 2022年5月6日閲覧。
写真提供者:
Росавтодор - CC BY 4.0
Statistics: Position
2513
Statistics: Rank
49008

コメントを追加

この質問はあなたが人間の訪問者であるかどうかをテストし、自動化されたスパム送信を防ぐためのものです。

セキュリティー
482917563このシーケンスをクリックまたはタップします: 3773

Google street view

どこの近くで寝れますか クリミア大橋 ?

Booking.com
489.385 総訪問数, 9.196 興味がある点, 404 保存先, 23 今日の訪問.